【読書記録】安達茉莉子『私の生活改善運動』

2025年5月18日日曜日

読書記録

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安達茉莉子『私の生活改善運動』(三輪舎、2022年、ISBN:9784910954004)

出会い

昔から時々足を運ぶ、小さな書店で見つけて手に取った本。パラパラとめくって、著者の安達さんと自分の考え方に似ているところがあるなと思い、もう1冊、一緒に並べてあった『毛布』とともに購入しました。この本は手触りがよくて、装丁も素敵なんです。ぜひ見つけたら手に取ってみてください。

この本を最初に読んだのは2024年の春です。実はこの本の存在は以前から知っていて、気になってはいたのです。でも「生活改善運動」という言葉に堅苦しさを感じて、当時の私は手に取るのをためらっていました。きっとその頃はまだ読むべき時期ではなかったのでしょう。

読み終わって、そのあたたかさに心をじんわりと温められた気がしました。それから1年が経ち、今もこの本は私にとって大事な本の一つです。

読書記録

ひとは豊かに暮らさねばならぬ

Yさんから影響を受けて「生活改善運動」を始めた著者のお話。

「ひとは豊かに暮らさねばならぬ」

というのが 「生活改善運動」の師匠であるYさんの信念だといいます。

読み始めて数ページ。この言葉に深く共感しました。「ひとは豊かに暮らさねばならぬ」そうはっきりと書かれているのを読んで、嬉しさと安堵がこみ上げてきました。

この本にはいくつもの印象深い言葉があります。それらに出会うたびに、うんうんと頷きながら、励まされているように感じながら読み進めました。

私の心に残った言葉はこちら。

「見ていて嬉しい気持ちにならないものを、何で見えるところに置いているの?くつろげる場所って、自分がいちばん、暮らしていて大事な場所なんやないかなって」

「やけどな。人生は短い。しょうもないもん使ってる場合やあらへん」

心の底に沈み、揺れて震えているものに、触れてみたいと思う。そのひとが生きてつくっている、生活について話を交わすことで。  

 ひとは豊かに生活していいし、幸せを求めてもいい。

幸せのほうへ行っていい。それには時間がかかるかもしれない。労力はめんどくさいかもしれない。だけど、タイル一枚だけでも磨いていくように、手が触れた箇所だけでも拭いていくように、少しずつでも手を入れていけば、必ず生活は全体として変わる。そんな生活が続いていき、やがて人生のトーンも変わっていく。 

そして、本の中で引用されていた言葉たち。

 いま、私たちが暮らしを変えようとするのなら、一人ひとりが「こころの奥ふかく沈むもの」に目を凝らさなければならないのかもしれません。

花森安治 『暮しの手帖 第5世紀第12号』(暮しの手帖社)

 Take your broken heart and make it into art 

壊れた心の欠片を拾ってアートにしなさい

キャリー・フィッシャー 

豊かに暮らすということ

この本を読んでいた時期、私は本棚に迷っていました。本が好きで、一度に何冊もの本を買うことも多いというのに、何故か本棚を持っていなかったのです。大事な本を収める棚ですから、いや、そうでなくても自分の部屋にどんと置くものなので、じっくりと吟味して、これだというものを買いたくて、でもその勇気がありませんでした。

それが本の山が部屋の一角を占めて、そろそろ目をつぶっておくにも限度があるという状態になってしばらくして、そろそろを限界を超えたなと思ったのが、2024年の初め頃。その年の目標の一つに「本棚を買うこと」を挙げたものの、なかなか決断できず、迷っては蓋をしながら過ごしていました。本棚が必要なのに、踏ん切りがつかず、その結果、自分の家なのにどこか居心地が悪い。そんな中感じで過ごしていました。

本に戻って、著者の安達さんはこの本の中で本棚をこしらえています。最初は本棚を買うことを考えていたけれども、それがいつしか作るに変わり、約4日間で本棚を完成させていました。

そうか、作ることもできるのか。自分で作った本棚はそれはそれは素晴らしく、大事なものになるだろうなと思いながら、本棚のある生活を改めて想像して、私は本棚問題を先送りにせず、必ず家に迎えることを決意しました。そして約2か月後、本棚のある生活が始まりました。

本棚のある生活を始めると、それだけで心が豊かになりました。平日の夜、或いは休日の朝や昼下がり。自分のお気に入りの本が並んだ棚から、その時読みたい1冊を手に取る時、そうでなくてもすぐそばに本があるだけで幸せで、自分の心を大事にできていると感じるのです。

「豊かに暮らすということ」

それは本棚だけではありません。例えば、お気に入りのポストカードを飾ること。一目ぼれしたスタンプを本棚の上に並べておくこと。好きなもの、お気に入りのものをよく吟味して迎え入れること。時が経って今の自分には不要になったものは、感謝とともに潔く手放すこと。そういったことも豊かに暮らすことの一部です。

幸せのほうへ行っていい

今は基本的に自由に生きていますが、特に昔は周りを気にしてあっちの方が自分にとって幸せなのを知っていても、我慢することがあった気がします。周りに合わせなくてはという感覚。

著者の安達さんもYさんに出会った頃は、幸せなほうを選ぶということに、いつもどこかに罪悪感があったといいます。その罪悪感に似た感覚を私も知っていました。でもそのような罪悪感は抱いて自分を追い込まずともよかったのです。本の終わりの方のこの言葉のとおり。
ひとは豊かに生活していいし、幸せを求めてもいい。

 この本から一つ選ぶなら、この言葉です。自分を犠牲にするような我慢をして生きるのではなくて、自分を大切にすること。

この言葉に出会って、それを意識し、実践するようになってから1年。前よりも確かにずっと生きやすくなりました。

終わりに

この本をもう一度読み返して、今の自分の感じたことをここに書き記したいなと思って、次に始めたこと。それは書き始めることではなく、家の掃除でした。

掃除機をかけて、ずっと気になっていた場所の埃をとって、シーツを交換する。ただそれだけ。

でも気分は全然違うのです。清潔なシーツはそれだけで気持ちがよくなるし、今日は寝るときが楽しみです。床の綿埃がなくなると、部屋自体がシャンとします。ごちゃごちゃと見えるかもしれないけれど、好きなものに囲まれた心地よい部屋が戻ってくる感覚。

そうしてスッキリとした気持ちとともに、パソコンに向かいました。この読書記録を書きながら、改めてあの時この本に出会えて良かったなと思います。その気持ちのままに書いてみました。

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