【読書記録】ロバート・A・ハインライン『ルナ・ゲートの彼方』

2025年5月15日木曜日

読書記録

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ロバート・A・ハインライン『ルナ・ゲートの彼方』(創元SF文庫、東京創元社、1989年)

本の核心部分にも触れています。まだ読んでいない方は、どうぞまずはこの本を読んでみてください。 

出会い

コーヒー豆を買いに行ったついでに立ち寄った書店で出会った一冊。タイトルに惹かれて手に取りました。

創元SF文庫と言えば田中芳樹の『銀河英雄伝説』です。人に薦められて読み始め、全10巻+外伝5巻はすぐに手元に揃いました。外伝ですが、やっぱり「ユリアンのイゼルローン日記」が一番好きです。最近出会った本だとジェイムズ・H・シュミッツの『惑星カレスの魔女』。この本をきっかけに書店に行くたびにこの文庫の一角を覗くようになりました。そうして出会ったのが、『ルナ・ゲートの彼方』でした。

読み始めて数ページ。「この本は間違いなく好きな本になる」そんな予感がしました。早く読み進めたいけれど、読み終えるのがもったいなくて、もどかしい、そんな感覚です。

それでも読むぞと決めて、海の中に潜るように小説の中に入っていき、読み終えたとき、寂しくて悲しいけれど、これで良かったんだという何とも言えない満足感がありました。

作者のロバート・A・ハインラインは1947年から1958年までの12年間、毎年クリスマス・シーズンに一冊ずつジュヴナイル長編を出版していて、この本はその10冊目にあたるそうです。(文庫解説より)

ジュヴナイル小説、つまり10代を対象とした小説だそうですが、私は10代ではなく大人になった今、出会えて良かったなと思っています。もちろん10代で出会えても楽しめたと思いますが、当時の自分が読んで、ラストを受入れられたかどうかは少し自信がありません。

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秀逸な場面構成

読み終わって思ったのは、場面の構成と配置に無駄がないなという事でした。例えば、サバイバルに行く前の惑星間ゲートの見学者バルコニーの場面。私はこの場面が好きなのですが、いくつかのゲートについての詳細な描写とゲートの接続操作の解説が滑らかに続きます。最後まで読むとリンクする場面があって、なるほど、ここに繋がってくるのだと思わず感嘆しました。

そしてラムズボタム博士の発見と人類の出発。冒頭の上級サバイバルの告知から始まる疑問に対して鮮やかな説明が示されました。そして次の家族との場面に移っていくのです。

場面の切り替えが一見唐突なように見えて、とても滑らか、そんな印象を持ちました。

姉・ヘレンの存在

この小説で一番好きな登場人物は主人公ロッドの姉、ヘレンです。ロッドの10歳年上で、アマゾン部隊の突撃隊大尉を務めています。さっぱりとしていて、面倒見も良く、経験豊富なヘレン。始まりと終わりにしか出てこないものの、その存在感は他の登場人物と比べても圧倒的です。彼女の言葉と武器はサバイバル中のロッドを確かに支えていました。

「これを帯び、すこやかに行け、兄弟よ」

終盤の選択

終盤のロッドの選択にはハラハラとさせられました。来ることのないはずだった助けが来て、彼らの世界はあっという間に現実に取り込まれました。その余りのあっけなさ、そして現実の容赦のなさにしばし固まりました。

そしてこれまで辛苦をともにし、自分たちの場所を一緒につくり上げてきた仲間が去った後、一人残されてそれでもなお「帰れない」と言うロッド。この場面はロッドがどういう選択をするのか、ドキドキしながら読み進めました。

そしてロッドの決めた道。ロマンチストの彼が、心が決まらぬ苦しさに顔を歪めながらも最後に決めたこと。私はそれで良かったと思います。そうでなければあまりに寂しすぎます。でもロッドの心情を思いながらも、「それでは寂しすぎる」と現実を見る私は、きっともう大人の側なのでしょう。

終わりに

10代の私がこの本を読んだ時、その結末に納得できたかどうか。少なくとも現実の容赦のなさに、きっともっと憤るでしょう。そしてロッドの苦しさにより深く共感できたのかもしれません。

それでも最後の場面を読んで、それで良かったのだと思ってしまうのです。寂しくて悲しいけれど、これで良かったんだという何とも言えない満足感、それを感じることに一抹の寂しさを感じたそんな一冊でした。

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