【映画】塚原重義監督「クラユカバ」「クラメルカガリ」

2025年6月15日日曜日

映画

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映画の感想なのか、記録なのかよく分からないものになったけれど残しておこうと思う。
「クラユカバ」と「クラメルカガリ」という2つのアニメーション映画を観た記録。

作品紹介

「クラユカバ」

・タイトル:クラユカバ
・監督:塚原重義
・塚原重義による初のオリジナル長編アニメーション映画。上映時間61分。

「クラメルカガリ」

・タイトル:クラメルカガリ
・監督:塚原重義
・原案:成田良悟
・長編アニメーション映画。上映時間62分。

Webサイト:弥栄堂/塚原重義
作品のWebサイト(クラユカバ/クラメルカガリ):https://www.kurayukaba.jp/

出会い

Amazon Prime Video で偶然見つけた映画。大正浪漫とスチームパンクというのかな。「クラメルカガリ」というタイトルが気になってなんとなく観始めた。映画はあまり見ないというのに、どうしてだか気になったのだ。始まってすぐに「ああ、私はこの映画は好きだ」と分かった。そのまま世界観に惹きこまれて、「クラユカバ」も続けて一気に観た。

映画が終わって現実に戻ってからもしばらくの間、自分のなかの一部がその世界観に留まっていた。いやたぶん今もまだそこにいる。その世界観に触れたのはこれが初めてだけど、私はこれに近しい世界を知っていた気もする。

2作品ともに丁寧に丁寧に作られた作品で、作り手の情熱がひしひしと伝わってきて、観ている私も幸せになった。この作品に携われた人たちは幸せだっただろうなと、羨ましくも思った。

音や光、描写で刺激したり、感情を弄ぶような映画とは一線を画し、そんなことは微塵も考えていない作品で、最後まで安心して世界に浸ることができたそんな作品だった。

クラユカバ

先に観たのは「クラメルカガリ」だけど、塚原監督の最初のアニメーション映画は「クラユカバ」の方だ。だからこちらから書く方が適切だろう。これから観る人がいたら是非「クラユカバ」から観てほしい。

私立探偵の荘太郎は、"不気味な轍"だけが手がかりの集団失踪事件の調査を依頼した情報屋の少女サキが誘拐されたのをきっかけに、"クラガリ"と呼ばれる地下領域に潜り込む。そこで地下を走る走行列車の列車長タンネと出会う…

クラガリニ曳カレルナ

クラガリニ曳カレルナ

作中で何度も出てくるこの言葉が印象的だ。 地下深くにクモの巣のように広がる"クラガリ"。暗闇の向こうに突如広がる地下世界。"クラガリ"の「仁義」を教えてやるという相手に、"クラガリ"から来たタンネは言う。「"クラガリ"、ここが?」「あくまでここいらは"クラガリ"のキワのほとり、クラベリと呼んでいます。」「貴公らが考えるよりも"クラガリ"はずっと深く、仰々しい」

この時点で荘太郎と同じく"クラガリ”に圧倒されていた私は、ここが"クラベリ"だと言うのなら、"クラガリ"は一体どんな世界なのかと思った。「クラガリニ曳カレルナ」その言葉を何度も聴きながら、"クラガリ"に惹きこまれていく感覚。もっと知りたい、見てみたい。たとえ行きて帰れぬ場所だとしても。

自分が"クラガリ"では生きていけないことぐらい分かっているけれど、分かっていてなお、どうしてこれほど"クラガリ"に惹かれるのか。"クラガリ"から来て、"クラガリ"へと帰るタンネやその周りの人たちはどんな風に生きてきたのか、そして生きていくのか。それを見たいと思ってしまう。そんな私が"クラガリ"に行けば、一瞬で消えてしまうだろうに。

クラメルカガリ

先に観たのはこちらの作品。「クラユカバ」が"クラガリ"に惹きこまれる作品だとしたら、「クラメルカガリ」はその美しさに胸を打たれた作品だった。こちらの方がスチームパンク感が強い。

泰平砿業・日ノ出炭砿、通称「箱庭」。"箱庭紡ぎ"として地図を書いて生きる少女カガリと箱庭からの脱却を夢見る幼馴染のユウヤ。姿を消したユウヤを探して地下に潜ったカガリは巨大な陰謀を目撃する…

 ユウヤは箱庭から出ることを夢見るけれど、カガリはそんなことは考えていない。次に見るなら、この二人に焦点を当てて観るのも面白いと思う。

俺も、俺に使われている君も、世間様からすりゃあとっくにまともじゃないんだよ

俺も、俺に使われている君も、世間様からすりゃあとっくにまともじゃないんだよ

情報屋の伊勢屋はカガリにこう言う。「クラユカバ」と比べればまだ明るいとも言える世界だけれど、日の燦燦とあたる世界ではない。得体の知れないものが確かに動いているとはっきりとわかる世界。伊勢屋に君もとっくにまともじゃないと言われるカガリは、果たしてまともじゃないことにピンと来たのだろうか。家族を恐らく早くに失い、伊勢屋のもとで箱庭で生きてきた彼女は、いつか"箱庭紡ぎ"が出来なくなることに気がついていながらも、その先を、或いは箱庭の外を思い描くことができないようにも見えた。

さあ、行こうか

後半のこの場面は、ぜひとも観てほしい。そのメロディーとアニメーションに胸をかき乱された。言葉による説明は無かったし、不要だった。これ以上の説明自体蛇足だと思う。

終わりに:主題歌とスチームパンク

主題歌について、どちらも主題歌が世界観にぴったりで素敵だった。「クラユカバ」はチャラン・ポ・ランタンの「内緒の唄」、「クラメルカガリ」はオーイシマサヨシの「僕らの箱庭」。どちらも映画が終わるその瞬間までその世界観から逃さない、そんな力があった。繰り返しになるけれど、主題歌も含めてとにかくすべてから情熱が伝わってくるそんな作品。

そしてスチームパンク。この2つの作品を観て、自分がスチームパンクが好きなことを自覚した。スチームパンクが背景にある作品をもっと見てみたい。映画でも本でも。どうやらこれを機に新しいジャンルを知ることができそうでワクワクしている。

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